紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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  本の紹介

  日浦 勇 著  自然観察入門 −草木虫魚とのつきあい−

                1975年(初版) 中公新書 224頁

 (本の構成)

     はじめに
   T 春の野の花
   U レンゲ畑
   V 流れにそって
   W 夏の野と林と虫たち
   X 墓参りの生態学
   Y 秋から冬へ
     少し長いあとがき     

(書評)

 本書は、昭和50年(1975年)に初版が出され、それ以来30年以上にわたって、自然に親しもうとする者にとって、タイトル通り良き入門書となってきた。著者は、大阪市立自然史博物館の昆虫を専門とする学芸員であるが、本書では昆虫だけでなく、太平洋ベルト地帯の都市近郊の樹木や草花についての記述も多く、実際に樹木や草花を観察するとともに、その同定法、生態的特性、植物と昆虫との関係や相互進化(共進化)などについて興味深く述べている。

 また、各章(T〜Y)の末尾に、「リーダーのためのメモ」という項目が設けられ、そこでは自然観察のねらい、自然観察の仕方、注意事項などについて、著者の体験を元にして述べられている。自然観察のリーダーを志す者にとって、大変参考になると思われる。

 筆者は、当ホームページで「ため池データベース」というページを設け、そこに、ため池の生き物について少しではあるが掲載しており、水辺の生き物について興味を持っている。そこで、本書を読むに当たって、まず、水辺に関係する「Y 秋から冬へ 溜め池めぐり」から、「V 流れにそって」と順次、読み進んだ。本書は、植物と昆虫、生き物の棲むいろいろな場所、春夏秋冬のいろいろな季節など、非常にバラエティーに富んだ対象を含んでいる。読者は幅広い対象範囲の中から、最も興味の湧く章を選び、順次読み進めるとよいと思う。

 著者は、自然認識の第一歩は、昆虫や植物の種の違いを自らの体の五感を通して実感し、種を識別できるようにし、種の名前を覚えることが大切であると述べている。その上で、種の違いにより、棲む場所や生活形が異なり、生態や行動も異なることを観察していくことの重要性を多くの事例を挙げながら述べている。

 そして、自然観察を通じて、自然の成り立ち、すなわち、「自然には構造があって、そこで生活する生物は、それぞれ種ごとの生活形を持って自然の構造に入り込み、それを利用し、かつ束縛されて生存していること、その結果、生活形社会が重層的、モザイク的に配置され、さらに歴史的に移り変わっている」ということを知ることが大切であると述べている。人は生物コレクションの面白さを知ると、往々にしてやたらと採集にこってしまったり、狭い対象しか見えなくなってしまうが、むしろ、自然観察によって自然に対する視野を広げ、自然認識を深めていくことこそが重要であると述べている。

 著者は、博物館の学芸員として、様々な職業のトンボ仲間とサークルを作り(後日、関西トンボ談話会に発展)、その中での唯一の昆虫研究者として同定と簡易識別法作りを進めてきた。その成果が、本書にもアカトンボ属15種の絵解き検索として掲載されている。また、著者にとって専門外である植物についても、博物館の同僚に聞きながら、また、図鑑をひもときながら、身近な植物について、著者自身にとっても分かりやすく、自然観察会でも使える図解検索表を作成し、本書に載せている。形や模様の似かよった近縁生物が存在する場合の種の同定は、新参者にとって難しく取っつきにくい分野であるが、本書を読むことによって、読者は同定の仕方の取っかかりが得られるものと思われる。
(M.M. /2007.7.5)


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